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遥かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス
藤原正彦著
四六版, 224ページ
1991年10月発行, 1100円(税込)
新潮社

数学者の見たケンブリッジ


 大学4年生にもなると,数学では就職できない,と嘆く数学科の学生がいる. そういえば,NHKテレビの人気アナウンサー草野満代女史は数学科の出身, とどこかで読んだ(これは学生諸君への激励であって,反例ではない). テレビと言えば,テレビの本質は実話の報道か作り話の娯楽か, その社会的意義についての社会的合意がない. 定義が曖昧では,分かりやすい世の中ではない. 気分転換におとぎ話の世界に思いを馳せるうち, コーナー名にそぐわない一冊を選んでしまった.

 ケンブリッジ大学出身の由緒正しい数学者(進化論のダーウィンの子孫)に, 本書の内容を聞いてもらったことがある. ドラマッチクなエピソードもあって,失礼にも, 「つくり」が入っているのかと思っていたが,大学関係の内容は (プライバシーに関するさりげない配慮を除いて)全て正確な実話だった.

 この本は,数学者としての研究活動から子供の学校や日常生活まで, 著者がケンブリッジに約1年滞在した体験に基づいている. 本書にも「ノーベル賞レベルであることが,教授になる必要条件」とあるように, ケンブリッジ大学は最高峰の学問の府の一つとされているようだ. 題材の世俗的イメージにふさわしく, 研究者についての,もっとも美しい部分を描いている. 表面上暗い話題にも,私はうらやましいまでの幸福を感じた. 事実を語っておとぎ話の世界とするのは著者の力量だろうか.

 著者の作品には他に「若き数学者のアメリカ」(新潮文庫)などがある. 短期契約の研究員の職をわたり歩く若手研究者の時代の喜怒哀楽を描いている. 数学者を夢見る若者にはこちらの本も勧める.


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