下記の内容を初めて公けにしたのは,2001年12月7日, 東京大学数理科学研究科談話会に,当時談話会委員だった神保道夫先生に 突然呼んでいただいたときです.談話会のあとでインタビューの時間があって, 「研究者を目指す院生諸君にアドバイスを,」というような項目で 下記の内容のお答えをしたと思います. インタビューの時間までわざわざ残ってくださった舟木直久先生から, encouragingという趣旨のお褒めの言葉(どういう日本語だったか忘れましたが) をいただいたことを覚えています.(研究科在籍の院生さんはビデオの記録を ごらんになれる,と理解しています.) 神保先生が2009年4月に立教大学理学部数学科に移られた噂を目にしたことをもって, ここに記録しておく縁としたいと思います.
幸運な人生は幸せです. すくすくと育って, 順当な人生が送れれば効率が良く,幸せが大きいと思います. 研究においても,遺伝的に高い資質を受け継ぎ, 高等教育を受けられる国と家庭に育ち, 活躍の場の広い分野に進んで,タイムリーな研究を若いうちに当てて 良い職に就けたならば,そのままその道を進むのが, 研究人生としていちばんの幸せだと思います. どうかせっかくの幸運をむだにされませぬように.
その選択肢がかなわなかった場合,まだチャンスは消えていない,と思います.
たとえば,最初に選んだ分野の研究のありかたに違和感があって, どうしても納得できなかった場合,そこで研究人生が終わったわけではない, ということです. まだ「『順当でない人生』というチャンスがある,」と信じます.
研究人生に限ったことではないと思いますが, 幸運という選択肢をもらえなかった場合, たくさんのデメリットがあり,道を変える判断が必要になると思います. それでも,人生が終わったわけではありません. 不運を冷静に判断することと生き急ぐことを区別してほしいと思います. そして,自分のやりたいことのできる道を探し当ててほしいと念じています.