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伊藤清三「ルベーグ積分」裳華房・数学選書4第35版p.136の補足


(2018/01/12):「実数の区間上で定義された有界変動関数が, 2つの非減少関数の差で書ける」ことは基礎解析でよく知られていて, そのことを表題の教科書(伊藤清三)の当該ページで用いています. ただ,教科書は,上記基本事項の証明で標準的に用いられる具体的な非減少関数 (全変動と全変動と元の関数との差の2つの非減少関数) の性質も使っていて,論理ギャップが生じています.

本webページは20年以上前から置いてあったページですが,20年たった最近になって 教科書上記のページに疑問を持つ複数の方々と出くわす経験をしました. 積極的に布教してないのに複数出くわすことは, この件で困る諸氏が無視できない人数おいでであることを意味する と推測したことと,自己解決されたかたが結論をまとめたブログを 書いて下さったので,リンクのため,久々に補足更新します.

(2023/08/02補足):以下の紹介は,有界変動関数について 伊藤清三「ルベーグ積分」が一松信「解析学序説」裳華房【旧版】上巻p.245-248を 引用した際に,

  1. 引用の精密さが不足していた上に,
  2. その後,内容削減を伴う改訂によって一松信【新版】から 有界変動関数の記述が消えたために,
伊藤清三の「直線上の絶対連続函数」の節に論理的な穴が開いていることの 解決策の紹介です.

解決策は以下に具体的に紹介してありますが, 一松信の旧版が見当たらないために確認できないでいたため, 問題点のほうの指摘は曖昧にしていたところ, この補足を書いた日に, 伊藤清三が引用する一松信の【旧版】は少なくとも 昭和49年発行第17版が該当することを確認しました.

その結果,伊藤清三の補助定理1の前の記述で一松信の定理7.3をそのまま引用したが, それが十分精密な主張でなかった,ということがわかりました. 定理7.3の証明の中で定義される全変動(総変動)を 下記紹介のように引用して用いるべきだった,ということです. (全変動の概念は,たとえばwikipediaの有界変動函数の項目の定義などがあるので, 下記紹介のとおり伊藤清三の記述を読み替えれば 一松信を参照する必要もなくなります.)


以下,このウェブページの本文です.

(1996/12/20): 教科書(伊藤清三「ルベーグ積分」裳華房・数学選書4)第35版p.136の 論理ギャップを津田稔朗君が見つけました.

p.136 (19.4) だけでは関数 F_1, F_2 は一意に決まらないので, (19.5) の全変動は定義が確定していない.F_1, F_2 は,著者が p.134 で引用している一松信の教科書の該当個所で選ばれている関数にとらなければならない. 伊藤清三の教科書はその(短いとはいえない)定義を省略してしまったことになる. このことは, p.148 l.1-3 の Lebesgue-Stieltjes積分の定義の際に必要になる. 教科書は「容易にわかる」と書いているが,津田君と検討した範囲では, 間違ってはいないが容易ではない.

(2005/10/07追記):伊藤清三に引用されている一松信の教科書は新版に 変わるにあたり内容を移動し減らしたため, 伊藤清三が引用している箇所が無くなった.

(2018/01/12追記):一松信の旧版の教科書が手近に無かったため,内容補充を 怠っていたところ,複数の筋から,この箇所の疑問を聞きました. そのうちのお一人Gota morishitaさんが, 問題点と教科書の当該補助定理の主張の修正を検討されて ブログにまとめました

解決策の要点は,実数の区間[a,b]上で定義された有界変動関数f: [a,b]→Rに対して 部分区間[a,x]の全変動V(x)に よってV: [a,b]→Rを定義すると, VとV-fはともに非減少関数なので,伊藤清三が補助定理1の前で(漠然と) fが2つの非減少関数の差で書ける,としているところを, 「f=V-(V-f)と書ける」 と明示的に置き換えれば,後々使う箇所で問題は起きない,ということです. (ただし,伊藤清三は全変動の定義も引用ですませて曖昧にしているので, 有界変動関数の全変動の定義は別途知る必要があります.)

伊藤清三の当該ページの補助定理1の上で非減少関数とだけ書いてあるため, たとえば2つの非減少関数に同じ不連続非減少関数を加えると, 補助定理の主張を満たしているけれども, 元の有界変動関数が連続でも2つの非増加関数は不連続になり, 教科書の後で補助定理を使う際に支障が生じていました. 上記ブログの内容によってこの不備が解消しました.

伊藤清三の当該節の導入部の記述・引用が十分精密で無かった上に, 引用に用いた一松信の改訂で有界変動関数の記述が消えた (紙の本の間のリンク切れ!)ために,最近になってこの問題が あらためて勉強の支障になっている,ということかもしれません.


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