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「統計と確率の基礎」学術図書,2006,服部哲弥 の補足と訂正


誤り無きよう細心の注意を払っても,ゼロにすることはでません. 少なくとも誤植をゼロにすることは誰にもできないようで, 私も例外では無い,ということです. たいへん申し訳ありません.訂正の一覧です.

断らなければ, p.* l.oo は *ページoo行目, p.* l.-oo は *ページ下からoo行目の意味です.

古い版・刷の訂正

以下最新版第3版第1,2刷の補足と訂正です(第2版にも影響し,第2刷の訂正は第1刷にも影響します).


訂正


  1. p.5 l.-3. p.125 l.11  「- log(1-y) ≧ y」 → 「(1-y) log(1-y) ≧ -y」
    (第2刷,2022/08/29)
  2. p.5 l.-3.  「N」 → 「Nn
    (第2刷,2020/05/03 湯浅久利さん)
  3. p.221 文献[14].  同じページの最終行付近に絶版と書いたが,復刊した: 北川敏男,統計学の認識−基盤と方法,新版,白揚社,1968年.
    (第2刷,2019/06/27)

    (原因を思い出せませんが, しばらく訂正のページの更新をうっかりしていたようです. たいへん申し訳ありません.)
    (追記:原因を思い出しました.苦労して論文を書いていました. つらい割に受けないことが分かっていたので,将来性のある若い人に助っ人を頼む ことができず,一人でかたをつけていたのでした.)

  4. p.221 l.-1 − p.222 l.1.  絶版の文献[14]のURLはRISM(統計数理研究所学術研究リポジトリ)に移動, 2020/05/03時点の直接リンクは https://ismrepo.ism.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=33835&file_id=17&file_no=1
    (第2刷,2017/12/27 Tomohiro Takata( @wingcloud )さん)
  5. p.222 文献[25].  URLを紹介したが,その後,教科書を出版された: 杉田洋,確率と乱数,数学書房選書4,数学書房,2014年.
    (第1刷,2016/11/16)
  6. p.154 l.-3 11章の補足の節の(11.26)と(11.27)の間.  「vik」 → 「vjk
    (第1刷,2015/09/05)
  7. p.217 l.7 11章章末練習問題略解問2(2).  右辺のB(k+α,n-k+β)は和の記号の中にあるべき
    (第1刷,2015/09/05)
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補足


  1. 第9章1節「BMI」への補足

    例題にあげた体重や血糖値を含めてほとんどの標準値は性別や年齢によって変わりますが,BMI (body mass index) の標準値 22 は共通のようです.


    (2014/09/22)
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  2. 第9章1節「回帰分析」の例題への補足

    まじめに読んで下さる方々(特に女性?)が誤解するようですが,本文に明記のとおり,図や表の「体重」の数値は「kg」ではありません(血糖値も「mg/dl」ではありません).表の最後の欄でぴんと来てほしいのですが,平均値が50と100になるように定数倍してあり,kg単位での値が推測できないようにしてあります.


    (2014/09/22)
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  3. 第2章「確率変数の期待値と分散」への補足

    立教大学時代に研究室に出入りしてくれていた大塚岳君から, 次のような問い合わせを頂きました:

    「分散を計算する代わりに平均とのズレを測ってその平均をとる、すなわち
    Σ|x-a|p (xが確率変数、aが平均、pが確率)
    という量で代用できないのでしょうか?
    無論計算して試したところ、とても評価できる代物ではなさそうだったのですが…」

    以下お答えです.


    散らばり具合の指標としては,それらしいものならば何を使ってもよいので, 分散の代わりに大塚君の対案でもかまいません. 元の分布によってはそれが扱いやすい場合もあるし, (教科書では紙数の都合で触れませんでしたが)ノンパラメトリック統計では そのようなものを扱います. 第2章(および以下本書)でそうしなかった理由はまさに 『無論計算して試したところ、とても評価できる代物ではなさそうだった』 という1点に尽きます. 正規分布に基づく統計分析では分散のほうが理論的に扱いやすいのです.

    一般的に,ある現象(いまの場合は散らばり具合)を調べる上で 目安となる量が複数ある場合に,どの量(今の場合は分散)を用いるか, という問への答えは, 「その現象の目安となる量のうちで理論的にまたはデータ収集上もっとも 扱いやすいものを用いる」ということになります. そう書いてしまうと当たり前ですが,どれが計算しやすいかということは, 大塚君のように実際に試してみないと分からないことで, 個々の問題では深い内容を持ちます. 教科書では当たり前のように「まず平均を調べましょう,次に分散を調べましょう」 と書いてありますが,これは統計学誕生の初期の長い研究の結果得られた 成果を先取りして近道案内しています.

    一般に教科書で勉強することの一つの価値は, そのような近道で短時間に能率良く最先端に達する ことができる点ですが,それだけに先を急ぎすぎると, なぜそれをやっているのか分からなくなり, あるとき落ちこぼれたりあるところから先の応用が利かなくなったりするようです. 本当は大塚君のように常に,「そういえば,なぜ?」と問うことが たいへん肝心と思います.



    (2007/12/28)
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  4. 第2章「確率変数の期待値と分散」への補足

    教科書として使ってくださっている赤間陽二先生から,(本書の主張とは逆に) 「並列並びのほうが直感的に一列並びよりいい」と感じる場合があるようだ とうかがいました.「自分もそう思う(教科書の結論が不思議だ)」と思う かたは,以下の補足を読んでみてください.それで納得していただけるでしょうか.


    並列並びのほうが,早い窓口をめざとく見つけて並ぶことで, 自分より先に来たのに遅い窓口に並んでしまった客を追い越せると思う かもしれないが,自分の直前の客が突然勘違いなどでもたついて, 後から来て他の窓口に並んだ客が自分を追い越して先に終わる可能性もある. つまり,並列並びのほうが一列並びより極端に待ったり極端に早かったりする 両極端が多い. これを『並列並びのほうが待ち時間のばらつきが大きい』と言う.

    いま(教科書本文の状況)は, 平均よりは余裕を見て並んでいて,自分の前の客が突然もたつく不運な状況を 減らしたいと考えているので,ばらつきは小さいほうが不運が少ない. 余裕を見て買いに来ているので,極端に言えば全員平均どおり処理が終われば 必ず自分も間に合う. ばらつきの目安となる分散が小さいのは(教科書本文の計算の結果)一列並び のほうなので,一列並びが目的にかなう.

    同じことを別の立場から考えてみよう. もし,朝寝坊して平均通りだと間に合わない時刻に列に到着して,一か八か 幸運に賭けたい,という賭け事の好きなタイプならば,自分の目の前にいる 客の少ない並列並びを好むかもしれない(そして,その客が偶然全員手際が良い ことに賭ける).でも,ここ(教科書)では用心深く余裕を持って 到着した人の立場で考えている. そういう慎重な人にとっては,ラッキーな人の多い並列並びはそのぶん「割を食う」 ので,一列並びのほうが良い.



    (2007/04/23)
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  5. 第10章定理32.カルバック情報量とフィッシャー情報量の関係の定理への補足.
    証明は密度を持つ連続分布の場合について書いたが,章末補足の節のように 離散分布の場合も(一般に,パラメータθの値がずれた確率測度が絶対連続ならば, すなわち密度関数があれば)成り立つことがわかる.
    (2013/09/21 湯浅久利先生)
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  6. 第5章「検定」章末問題と第10章5節「エントロピー」の関係
    クッキーのレーズンの個数の問題と大偏差値の原理(独立確率変数の和の場合)

    例題1:  不良品率pの部品製造工程で毎日N個の部品を作る. 不良品の割合をあらかじめ定められた1より小さい値p0以下にするには pをどの程度にすれば良いか.ただしNは大きいとする.

    解答1: 不良品率pとは製品を十分たくさん作ったとき, そのうちの不良品の割合だから,これを p0以下にするにはp≦p0とすればよい.

    考察: 多くの基礎教科書でやや込み入った状況を扱う際は, この水準の解答を前提とする問題が多いように思う(次の例題2参照). いっぽう,例題1のような簡単な分布について, あらためて例題1のように問われると,たとえばN個とも偶然不良品という 確率も0でないので,まじめな経営者ならば, 単純に製造工程の平均品質 p を品質基準 p0 に等しくなるように 調整するだけでは心配になる.

    そこで,品質 p が基準 p0 より小さくとる:
    (*) p<p0<1 .
    それでもなお,N個の中で不良品の割合がp0以上となる (不運にも困ったことが起きる)確率 qN を計算する. qN は不良品の個数SNが N p0 以上となる 確率 P[ SN ≧ N p0 ] なので, N個の中の不良品の個数は2項分布に従う(第1章§1;以下引用は 「統計と確率の基礎」)ことから,2項分布の和
    qN=P[ SN ≧ N p0 ] =Σk≧N p0 NCk pk (1-p)N-k
    で書ける.しかし,Nが大きいと,N p0 以上(全部で N 個の部品 なので N 以下)の k は多数あるので,この和の計算はたいへんである. 中心極限定理のように積分で近似できれば容易に大きさを評価できるが, 中心極限定理(第1章§3)は,定数 a に対して
    P[ SN - N p ≧ a √(N p (1-p)) ]
    の形の確率を正規分布で近似するいっぽうで,ほしい確率は,
    (**) P[ SN ≧ N p0 ]= P[ SN - N p ≧ N c ]
    と書き換えると(c = p0 - p > 0 で考えているので), N が大きいとき,中心極限定理よりも大きな偏差(平均 N p から遠いこと) を求める問題であり,中心極限定理は一般に近似が悪いことが知られている. さいわい,(**) の形で N→∞ で良い,しかも,例題1のベルヌーイ試行(第1章§1) によらず,非常に一般性のある,一般論が知られている.

    製品(部品) i が不良品のとき 1,良品のとき 0 となる確率変数を Xi とおいて,これらは独立で,その分布は等しく,
    P[ X=1 ]= p , P[ X=0 ]= 1-p ,
    となる X の分布とすると, SN= X1+…+N と書けて, E[ SN -Np ]=0 が成り立つ.ここで,Xiたちが独立 同分布だが
    Q[ X=1 ]= p0 , Q[ X=0 ]= 1- p0
    となる別の確率測度 Q を持ち込み,Q についての期待値を EQ と書くと,X=1となる重み p を p0 に変えただけだから
    (***) EQ[ SN ] = N p0 , VQ[ SN ] = N p0 ( 1- p0 )
    となる.元の P との関係は,各 i について Pについての期待値は Xi=1 のとき p をかけ, Xi=0 のとき 1-p をかけて和を取るのに対して, Qについての期待値は Xi=1 のとき p0 をかけ, Xi=0 のとき 1-p0 をかけて和を取るから, 今まで E[・] と書いていた P についての期待値を,一時的に EP[・] と書いて EQ[・] と区別すると, (事象Aが正しいとき1,そうでないとき0となる確率変数を 1A と書いて,)(**)を変形すると,
    (**') P[ SN ≧ N p0 ] =EP[ 1SN ≧ N p0 ] =EQ[ (p/p0)SN ((1-p)/(1-p0))N-SN かける 1SN ≧ N p0 ]
    = e-N I(p0) かける EQ[ (p(1-p0))/((1-p)p0) SN-Np0 かける 1SN ≧ N p0 ]
    ここで, I(p0) = p0 log (p0 / p) + (1-p0) log ((1-p0)/(1-p)) = E[ (dq/dp) log(dq/dp) ]

    とおいた.(I(p0)の最右辺の期待値の中の dq/dp は, X=1 のとき p0/p , X=0 のとき (1-p0)/(1-p) ,となる確率変数を用意すると 整理して書けるという意味.) (***)の期待値を見ると, 期待値の中身の 1SN ≧ N p0 は SN が期待値付近の値を取る(大きな)確率を含んでいる (というよりも, EQ[ SN ] = N p0 が成り立つように Q を選んだ,というのがここの手法の第一の要). P で見ると計算が難しい大偏差が, Q で見ると 中心極限定理の使える期待値付近の確率で表された. 大偏差であることの確率の低さは,(**') では I(p0) という定数 (エントロピー,第10章5節参照)の大きさで表される=計算ができた! 最初に (*) の範囲で考えたので,(**')の最右辺の期待値の中身は常に 1 以下, したがって期待値も 1 以下である. このことから特に,
    (★') P[ SN ≧ N p0 ] ≦ e-N I(p0)
    下からの評価は,(***)の Q についての 分散と中心極限定理(と,チェビシェフの不等式)と N についての議論を 上手に(しかし,初等的に,)用いると, N が大きいときの小さくなる速さは エントロピーの指数関数の因子のほうが大きいことがわかる. 以上をまとめると,
    (★) - limN→∞ N-1 P[ SN ≧ N p0 ] = I(p0) = p0 log (p0 / p) + (1-p0) log ((1-p0)/(1-p))
    を得る.大雑把に書くと,問題の (**) は e-N I(p0) 程度の速さで N が大きくなるほど指数関数的に小さくなる. ちなみに,0<p<1 のとき I(z) は 0<z<1 で I(z)≧0 を満たす 狭義凸関数で z=p で最小値 0 を取り,それ以外の z では正なので, 得られた大偏差値の評価は N とともに指数関数的に小さくなる.

    たとえば,例題1に戻って,1日の部品生産量 N が百万個, 品質基準が p0=0.01 のとき,(★')から, p=p0 - 0.0003 のとき(ほんのわずか基準より厳しい品質を保てば) 1日の不良品数が N p0 を超える確率は 0.01 未満になり, p=p0 - 0.0005 にとれば,確率百万分の2に激減する. 品質基準がやや厳しくて p0=0.001 のときは, p=p0 - 0.0001 のとき 1日の不良品数が N p0 を超える確率は 0.005 未満になる. 相対的には余裕を見ないといけなくなる(N の有限性が見えてくる)が, p=p0 - 0.0002 のとき百億分の 1 まで一気に確率が下がる.

    例題1の解答として大偏差に関する以上の考察を要求するか?

    • 要求される品質基準が粗い(p0が大きい,たとえば前段落の数値例で p=0.001ではなくp=0.01の場合),Nが有限のために追加で見るべき余裕 p0-p は(前段落数値例のとおり)小さい(下記例題2も参照).
    • Nが大ならば必要な水準pと品質基準p0の差は小さい(大数の法則) ので,この場合も大偏差のために追加すべき余裕 p0-p は(前段落数値例のとおり)小さい.
    • 大偏差(製造個数 N が有限であるための運の悪い不良品の集中)は, 0 にはできないので,その確率をどこまで抑えるか (言い換えると,起きたら平謝りするしかない想定外の確率をどこに置くか), が問題1に指定されていないときは,そこまで踏み込まなくてよい状況かもしれない. ただし,前段落の例のように,少し品質制御を厳しくすることで,大偏差確率は 急速に小さくなることから,明示が無くても p0-p のオーダー (大きさの程度)を,題意の数字から推量して答えることも可能かもしれない.
    • エントロピー I が答えに現れることからわかるように, 大偏差の考察は尤度にまつわる理論(第10章後半)の水準の内容である. 統計学の基礎講義の最初ではなかなかそこまで要求しない,かもしれない.

    一般論: 大偏差値に関する(★')や(★)のような評価は, 独立確率変数の和の場合には,ベルヌーイ試行に 限らず広い範囲の分布に対して成り立つ.たとえば
    (★2) E[et X]<∞
    がすべての実数 t に対して成り立てば十分である. (したがって,研究としては,独立でない確率変数の和への拡張が 大きな理論として発展した.そのような視点の結果を大偏差値の原理と 総称する.ここでは独立確率変数の場合のみ解説する.) Xi たちが独立同分布で,その分布に従う確率変数 X について (★2) が成り立つとき,その和 SN=X1+…+XN について, (**) に対応して,
    (★3) a< E[ X ]
    を満たす a に対して, P[ SN ≧ N a ] (大偏差の確率)を考える. 例題1の Q に対応する分布は
    EQ[・] = E[・ eτ SN ]/E[ eτ SN ]
    が,(***)に対応する
    EQ[ SN ] = N a
    を満たすようにとる.指数関数eτ SNで重みをつけるのは, 独立確率変数の和なので,個々のXiの独立性を保ったまま,
    a=E[ X eτ X ]/E[ eτ X ]
    を満たすようにτを(与えられた a に対して)選べるからである. (そのことから,(★)のようなNについての指数関数的減衰を一般論でも得る.) X の母関数
    (★4) φ(t)=E[ et X ]
    が微分可能で
    (★4') a=φ'(τ)
    に解があれば(つまらない例を除いてφ'(t)は狭義増加なので), τは唯一の解である.(例題1:ではφ(t)=etp+1-p なので p0=a とおくと τ= log((1-p)a)/(p(1-a))) となる.)
    例題1の考察と同様に
    P[ SN ≧ N a ] = E[ 1SN ≧ N a ] = e-N I(a) かける EQ[ e-τ (SN-N a) かける 1SN-N a≧0 ] .
    ここで,Xの母関数(★4)と大偏差 a をQの平均に持ってくるτ (★4') を用いて I(a) = a τ - log φ(τ) とおいた. EQ[・]の因子は(例題1の考察と同様に)中心極限定理と チェビシェフの不等式によって,N についての減衰の速さが相対的に弱いことが わかるので,(★)を一般化した
    (★5) - limN→∞ N-1 P[ SN ≧ N a ] = I(a)
    を得る.(★4') の解τがない場合(φが狭義増加関数の場合)も 含めて
    I(a)= supt∈R (a t - log φ(t))
    とおけば,(★2) を満たす任意の分布の場合に (★3) の範囲で(★5)が成り立つこともわかる.

    例題2:  菓子工場で1日1000個のレーズン入りクッキーを作っている. 製造工程では1個のクッキーに入るレーズンの数Xはばらついていて, そのばらつきは平均λのポワッソン分布に従うとし, 最後の品質検査でレーズンが3個未満(X<3)のクッキーは廃棄する. 廃棄率が0.1未満になるためには, 有効数字2桁で1日何個のレーズンを製造工程に供給すべきと見積もるか?

    解答2:  冒頭の例題1解答1(大偏差の考察なし)の水準の答え.
    P[X<3] = e (1+λ+ λ2/2) < 0.1
    としたい.電卓計算を実行すると,
    λ=5.3のとき P[X<3] = 0.101…> 0.1,
    λ=5.4のとき P[X<3] = 0.094…< 0.1,
    なので,有効数字2桁で,クッキー1個あたり平均λ=5.4粒以上のレーズンを供給する. 1日1000個のクッキーを作るので,約5400個のレーズンを供給するのが妥当と見積もる.

    考察2:  λ=5.4のときの廃棄確率 p=P[X<3] = 0.094… に対して, 確率 p でXi=1 (i番目のクッキーが廃棄)とおくと, 1日の廃棄数は N=1000 に対して例題1の SN に等しい. これが N p0 = 1000*0.1 = 100 以上になる確率は,(★')から,
    P[ SN ≧ N p0 ] ≦ e-N I(p0)
    右辺は,λ=5.4のとき0.854…となる. 今の状況で廃棄率が0.1を越える確率が0.5を越えることはないので, 0.854は無意味な数字であり,(★')が上からのゆるい評価でしかないが, しかし,廃棄率が0.1を越える可能性が無視しづらい,と考える. さいわい,λ=5.6で早くも 0.145 程度になり,
    λ=5.7のとき e-N I(p0)=0.03…
    となって,100日のうち97日程度は廃棄率0.1未満を達成する.
    λ=5.8のとき e-N I(p0)=0.004…
    と急速に小さくなる.λ=5.8はレーズン1日5800粒供給に相当する. (解答2と比べると,1割増しとなる.) 平均的な廃棄率は λ=5.7のとき P[X<3] = 0.07677…
    λ=5.8のとき P[X<3] = 0.0715…
    となる.N が1000程度だと,平均的な廃棄率は目標よりもやや下げたほうが 安全のようである.

    ちなみにN=1万ならば, λ=5.4でもe-N I(p0)=0.2… で,100日のうち80日程度は目標の廃棄率に収まる. λ=5.5ならばe-N I(p0)=0.0003… となって,ほぼ心配無用となる.

    (2013/04/28 湯浅久利先生の質問に基づく)
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  7. 第11章「検定の定式化」2節「ベイズの公式と事前確率」問題への補足

    講義で参考図書指定してくださっている 鳥巣伊知郎先生から 問い合わせをいただきました. 「(1) P[A]=0.01ではない理由」と「(2) P[A|Bc]=0.01となる理由」 の説明が不足していました.補足説明をしておきます.


    (1) まず,P[A]=0.01 が言えない理由です.Aは犯人の血液型とX氏の血液型が 一致する事象としましたが,これが起きるのは, X氏が犯人の場合か, X氏は犯人ではないが偶然犯人と同じ血液型の場合,の二通りあります. 後者の確率は0.01が関係し得ますが, 前者はX氏が犯人である先験的確率そのものなので,それを知らないと 何とも言えません.合計するとP[A]=0.01は言えないと思います.

    (2012/04追記.) パラドックスなので,確率空間の設定が明示されてないことに 問い合わせの真因があるかもしれない,と気付きました. 紙数(=値段)の都合上,この先テキストを改訂させてもらえても, 詳しいことを載せられそうにもないこともあって,ここに,再補足します. テキストの P は,事前確率で,X氏が犯人の確率を p としました. 全事象ΩはX氏を含む市民を一人ずつ並べて「○氏が犯人」というサンプル(要素) 10万個からなる集合とします. 市のX氏以外の(10万-1)人については単純に等確率として一人あたり 犯人の確率を(1-p)/(10万-1)として,P を定義します. 「X氏が犯人」という要素(サンプル)だけは等確率とは限らないことに注意. 10万の要素のうち血液型が特殊な10万×0.01=千人の要素を集めたのが事象Aです. Aは「X氏が犯人」という要素を含むので,確率の計算が単純な人数倍になりません. 以上の定義で計算するとテキストどおり,P[A]=0.99p+0.01となります.

    2012年4月の項へ戻る

    (2) 次に, P[A|Bc]=0.01 の意味です. Bc は X氏が犯人ではないという事象なので,この条件下で 残り (10万-1)人のいずれかが犯人です. A∩Bc は犯人の血液型が犯人でないX氏と同様に100人に一人しかいない 血液という事象ですが, この市には 10万/100=1000人 この血液型の人がいるので,X氏を除く (1000-1)人のいずれかが犯人ということを意味します. 従ってBcの条件下でAが起きる確率は, P[A | Bc ]=P[A∩ Bc]/P[Bc]=(1000-1)/(10万-1) となりますが, これはほぼ 1000/10万=0.01 に等しいので 0.01 としました. (最後の行は, (1000-1)/(10万-1)=1000/10万*(1-1/1000)/(1-1/10万)=0.01*(1-相対誤差3桁) =ほぼ0.01 という意味.)


    この機会にさらに補足. ベイズ流の統計学を現実に適用するとき先験的確率(P[ ]そのもの) はよくわからない『取扱注意』なものです.(そもそも,X氏は犯人か犯人で ないかどちらかで,確率は意味がない,という立場すらありえます.) P[A | Bc]やP[A | B]などの条件付き確率のみが入手しうる情報で, これと『取扱注意』のP[B]の値に基づいて, ベイズの定理からP[B | A]を推定します. P[B | A]はAという情報を入れた分,最初に暫定的に決めたP[B]よりは Bの蓋然性に関するマシな推定値であると期待します.

    この方法が実用上威力を発揮するのは A のあとで別の情報 C (靴が特別な形だった など)が入ったとき, ベイズの定理のP[B]とP[Bc]の値を P[B | A]とP[Bc | A]の値で置き換え(更新し)ておいて, 公式をA=Cとして適用することで,既に取り入れてあった情報Aに続いて 新たな情報Cの効果も帰納的に取り込める点です. 情報を集めることを条件付き確率の形で繰り返し適用することで, 状況証拠が指し示す事象の確率が上がっていき,次第に正しい結論に向かう, というのがベイズ流の考え方だと思います. 新薬や新しい治療法の効果を判定する際は, 個々の病気はめったにないことなのでデータが少ない状況が続きます. 他方で新たな患者さん(病気)は待ってくれないので, データが少ないうちからとにかく結論を出しておいて, データが増えるごとに逐次結論を素早く更新することが必要です. そのような状況ではベイズ流の統計学が扱いやすい考え方です.

    教科書に戻って, 更新情報が増えれば(大数の法則により)落ち着くところに落ち着くでしょうが, 情報が少ない場合は, (100人に一人の血液型といった,「常識的には」貴重に見える情報であっても) 結論が『取扱注意の事前確率』に強く依存する危険がある,というのが この問題の真意です.つまり,素早い判断に便利といっても, 安易に使うとそこには落とし穴がある,という次第です. この補足を書いている時期, 風邪のときの異常行動が病気のせいかタミフルのせいか議論になっています. これまでの経験(事前確率)で判断できる問題ならば 少数のデータでも誤りの少ない結論が出せますが, もしこれが今までの薬では見逃されていたメカニズムによる薬の副作用ならば, 少数の異常行動のデータでそれを検出するのは, たいへん精密な検証(たとえば投薬から異常行動発現までの時間と 発熱から異常行動発現までの時間のどちらが鋭いピークを示すか,など) を要することでしょう. そのようなことを検討する場合は結論がなかなか出ないほうが自然です. 日本はこの薬の使用量が特に多いらしいので, 新しいメカニズムが検出できるとすれば(あるいは無いと安心できるとすれば) 日本で最初に結論が出るはずの問題のようです. そういう事情もあるからではないかと推量していますが, この問題に関しては冷静な対処が行われているという印象を持っています.


    (2007/12/28)
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参考:
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第1版(学内限定版)の追加と訂正

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正式版(第2版)の校正が終わりましたので, 学内限定版準拠の訂正は以下をもって終了します. 以後の訂正は上記正式版の訂正に移行し,正式版にページ数等を準拠します. 学内限定版に影響する訂正もあるかと思います. ご不便をおかけしますが,どうかご容赦下さい. (2006/09/25)

  1. 学内限定版(第1版)から第2版第1刷への主な追加 (主に図版付きの例)の一覧ファイル
    (約150KB pdf file・Final update 2006/05/20).
  2. 学内限定版から第2版第1刷への訂正一覧ファイル (約74KB pdf file・Final update 2006/09/22).
(過去の記録: このリンクは記録のためだけに残してあるもので 上記pdfファイルをご利用いただいた場合は不要です.)


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